生徒の成績が上がる授業テク!【予習編】 

「想いは手法の上流にあり、しかし手法なき想いは無力なり。」

吉田松陰

 

この言葉は、僕の好きな言葉の1つで吉田松陰の言葉です。

佐野先生はモチベーションについて、田村先生は仕事に対しての心構えなど、「想い」に重心をおいたメッセージが続きました。また、「業務を仕事に」から「仕事をゲームに」という視点を①気づき~⑤アクションの強化&練度の向上に至るまで具体的に書かれており、業務改善のヒントにつながるポイントが数多くありましたね。

そして今回、業務改善として中心に考えるべき「授業」について具体的な観点を書いていきますので、ぜひ活用してみてください。

 

「想いは手法の上流にあり、しかし手法なき想いは無力なり。」

この言葉にあるように、手法や小手先の技術に留まるのではなく、大義=「理念の実現」や「先生方の生徒への想い」を具現化した授業を行えているのか、常にセルフチェックし、修正・改善していかなければ、時間の流れとともに劣化した手法(技術・手法)で授業を行ってしまっている可能性があるため、想いを大切にするのと同時に、手法の改善の重要性を説明したいと思います。そこで、今回は僕の塾歴23年の中で培った授業改善の観点・手法について書いていこうと思います。

 

 

 

                     

ざっくりと自己紹介します! by沖汐俊之 

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ご存知の方もいれば、そうでない方もいらっしゃると思うので、前提を揃えるために僕のキャリアについて少し触れておきます。僕は、兵庫県姫路市の隣にある太子町出身で、地元の公立進学校から姫路工業大学(現兵庫県立大学)の理学部に進学し、18歳から地元の学習塾でアルバイトを始めました。約5年間アルバイトの後、塾人としての歩んでいくことを決意し、大学院を中退しました。23歳の夏のことでした。

業務内容は、立志における京進と似ており、公立進学校の生徒対象に、高1、2生への数学の集団指導、高3への代ゼミの進捗指導を行っていました。メインのターゲット層である龍野高校は、1学年320名の高校で、入社当時は、1学年10人~15人程度の在籍で、3学年合計で最大60名程度でしたが、在任期間の10年間のうちの5年目で在籍生徒200名の教室にすることができました。

今年度のテーマになりうる言葉かもしれない「変態性」というワードから、 現職の個別指導の観点ではなく、キャリアの中で身につけてきた集団指導の観点について数回に分けて書かせていただきます。

 

今回の第1回目のテーマは、「授業の予習」についてです。

僕が予習をする際に留意することの中で、最も基本的な3つを紹介します。

1つ目は、新たに扱う単元における「既習単元との接続」について

「未知」と「既知」の接続部分がどこにあるかを確認しなければ、集団指導として、生徒全員を効果的に理解させることが難しくなってしまうからです。生徒たちが「分かりやすい」と感じる授業の要素で一番大切なことは、「指導単元が自分の既知に近接しているか」どうかです。特に高校数学では、概念の抽象度こそ上がってしまいますが、中学内容に比べ実に見事にな単元が積み重なっています。

EX.高1で学習する単元「展開」について

そこでは、

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の公式が出てきます。これを公式の暗記として処理することもできますが、中学内容との接続として(a+b)1つのものとしてとらえることで既知とするならば、

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としてとらえる事ができ、未知としてとらえなくても解けます。このように生徒が新しく学ぶ問題・単元が前学年のどの単元または考え方に接続できるかをよく見てみましょう。

単元の繋がりを理解する知的好奇心・既習事項の組み合わせだけでも解ける!という驚きの提供・高度な高校範囲という不安感を取り除くこと=安心感の提供にもなり、生徒がより主体的に授業に参加するきっかけにもなります。

 

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2つ目は、例題に使用する数字の設定について

数学の科目特性として正解に至るまでの過程が二段階あります。第一段階として、正解を導くために必要なプロセスとしての「解法の暗記」ができているか、第二段階として答えと同じ数字を算出できる計算力(四則演算※通分・約分も含む、移項処理etc)が必要です。多くの生徒はこの構造に対して無自覚です。

 

つまり、指導する側はこの構造を意識し、生徒が単元の構造を理解するパートである「解法の暗記」段階と、正解に辿り着くために必要な「計算力」を身につけさせるパートである「演習」を授業構成として効果的に組まなければ、クラス内の各生徒の理解度の差により、授業の空気感(理解している生徒とそうでない生徒の状態:顔色、演習速度、正答率)が大きく変わってしまいます。

 

我々が授業を行う上での最低限の到達地点は、「生徒が自力で指導した問題が解ける」ようになることです。そのためには、例題として提示する問題の計算が複雑になってしまう場合、途中計算でのミスが生じやすくなり、単元に対する印象が「難しく」感じ、苦手意識を植え付けることになります。言い換えれば、生徒の苦手意識を作り出す元凶になってしまう可能性があるという事です。

 

このような観点から、授業で扱う例題に用いる「数字」は極力簡単な途中計算になるよう設定しなければなりません。「解法を覚えていくこと」のみに生徒の意識がいくように心がけています。その上で、授業で扱う演習問題の数字に関しても同じ工夫をしましょう。

 

他にも、生徒が演習中の時には、机間指導を行っていると思いますが、解いている生徒のノートが授業者のイメージした通りになっているかどうか、計算ミスを誘発して手が止まってしまっていないか等の確認をします。もし、解き方が誤っている生徒が2名以上いた場合は、自身の解説が悪かったと認識しましょう。

これらに対し、注意深く授業を行い、修正の必要が生じた場合は、必ずその場でメモを残し、授業改善に繋げていくことで、授業力は向上していきます。ただし、生徒の学力層や基礎領域の定着度合いの違いによって、上記の全ての項目を練り直さなければならないことも留意しなければなりません。

この点を「教務」の価値観の中心に据えているだけでも、より多くの生徒に対し、より多様な学力層の生徒に対し、自身の授業の価値を提供する事に繋がります。このような微細な修正の積み重ねが生徒数拡大に必要な基礎体力を高めていきます。集団指導に携わっている先生は是非一度確認してみてください。 

 

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最後に3つ目は、「単元を抽象化して理解する力」について

これは使用する公式や理論が「どんな時に必要で」「どのように使用するのか」「要はこの問題は〇〇を求められているから、この公式を使おう!」などの観点を簡潔にまとめる判断力のことです。現在、入試や各学校のテスト等で求められている「思考・判断・表現」において非常に重要な能力です。生徒が入試等で求められる資質になるため、授業において、授業者がこの観点を見極められているかが、後の生徒の得点に大きく影響することは、言うまでもありません。

EX.高校範囲の様々な直線を求める問題について

代表的なものに「2点を通る直線」や「接線」、「垂直二等分線」等があります。教科書では例題と解説がセットで記載されており、単純暗記&短期記憶で解けてしまう側面がありますが、直線を求める式には「傾きと通過点」の2つの要素が必要だという「思考力・判断力」が身に付いていなければ、様々な問題が入り乱れて出題されるテストや模試、ひいては入試において得点することは難しいでしょう。

生徒には、例題を暗記させることの先に、単元において理解すべき「概念」の部分まで判断できる力を身につけさせる必要があります。これは、授業の中での演習に止まらず、宿題、確認テスト等の結果から、注意深く生徒の回答を見つめなければ、テスト&模試結果が返却された時に、「こいつ、できてないやんけ」と生徒に対して責任転嫁する結果になってしまい、計画的・組織的に生徒の得点を向上させることから「かけ離れていきます。」つまり、授業者はこれらのことを深く理解し、授業・宿題・確認テスト・自習におけるまで、生徒がどのような状態にいるのか、見極められるよう、単元における自身の深い理解を身につけておきましょう。

 

今日は、授業の予習をテーマに気を付ける3つの要素を書いてみました。

僕が長年集団指導に身を置いてきた中で「先生の力量以上に生徒は伸びない。また、先生に力量が無ければ、生徒数を維持できない。」ということを痛感してきました。現在、集団指導という形態は、最難関層でこそシェアを握っていますが、ボリュームゾーンにおいては全国的に個別指導や自立学習系に比べ苦戦しています。しかし、「生徒募集で苦戦している教室は授業が良くない」という仮説を持ち、授業改善を推進することで、自教室の生徒の成績が向上し、口コミや紹介に繋がり、シェア拡大に繋がります。

僕が自身のキャリアの話を書いた理由は、決して自分の実績を自慢したかった訳ではなく、兵庫県の田舎町で何もわからない20代の教室長でも、なんとか現状に対する工夫を諦めなければ、東進をはじめとする大手塾・予備校が競合になったとしても、地域シェアNo.1は獲得できるのです。

集団部門では、授業の映像の録画が始まっていると聞いています。是非、自身の授業を見直したり、他の先生方との授業に関する議論を通して切磋琢磨し、自分のレベルアップを推進してみてください。

 

最後に、冒頭の吉田松陰の言葉に返りますが、

”「想いは手法の上流にあり、しかし手法なき想いは無力なり。」”

今回、僕は授業の手法(予習編)をお送りしたのですが、この言葉にあるよう、手法の追求をしたかった訳ではなく、生徒の成績向上や、地域の子供たちへの受験を通した成功体験の提供を目的とし、その想いを果たすため、飽くなき自己否定としての「授業改善」を行ってきたということを、皆さんに紹介したかったのです。

想いの核を大切に、修正し続けることを始めていきましょう。

 

文責:沖汐 俊之